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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和46年(く)21号 決定

少年 G・N(昭二八・三・八生)

主文

原決定を取消す。

本件を鹿児島家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意および理由は、抗告申立人G・Mの抗告申立書記載の通りであるからこれを引用する。

所論は要するに原決定の処分は著しく不当であるというものである。

よつて、記録および当裁判所の事実の取調べの結果によつて検討するに、本件非行の動機、結果等については、少年は共犯者であるAに誘われて本件非行を敢行したが、被害額は軽微で、かつ被害品はすべて被害者に還付されて実害はなかつたこと、少年の保護者は、原決定後被害者○野○彦に損害品補修料として金二五、〇〇〇円持参して謝意を表していることが認められ、又その要保護性については、少年は能力的に多少おとるところはあるけれども、子供の頃、野荒しをして父に叱られた位で従来とりたてて非行は無かつたこと、中学校卒業後一年位はたいした理由もなく数回転職があつたが、その後は兄と同じ職場に安定していたし、親兄弟とのつながりも常に持つていたこと、両親は、少年が遠隔の地に就職した関係もあつて多少放任したきらいは無いではないが、本件を契機として、父は出稼ぎをやめて少年と共に疏菜園芸にはげむ決意であり、両親は、少年が収容されて後は再三鑑別所や少年院に足を運ぶなどしていて、保護の意欲は十二分に認められ、少年も又退院後は父と共に農業にはげむ決意であることが各認められる。

以上の事実をかれこれ勧案すると、いまだ少年は収容して矯正教育を施さねばならぬほどの段階に至つているものとは認め難く、同胞の協力で在宅補導することも十分可能であると考えられる。右の通りであるから、原決定は著しく不当であるとのそしりを免れず、論旨は理由がある。

よつて少年法三三条二項によつて原決定を取消し、本件を鹿児島家庭裁判所に差戻すこととし、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 淵上寿 裁判官 真庭春夫 笹本淳子)

参考一 抗告申立理由(昭四六・六・一八付法定代理人父作成)

抗告の理由

少年は中学校卒業までは全く問題を起こしたことのないおとなしい少年でありました、奈良県下に就職しましてから所謂カー・ブームで、同僚の少年達も自動車を乗り回すという周囲の状況から、自分も運転免許を得ようとして、自動車を所有している同僚の車を夜間借りて練習するうち、すでに非行に陥つていたその少年に誘われてその窃盗を手伝つたと考えられます。しかしまだ習癖となるまでに至つていないと思いますので、一日も早く問題少年の中から遠ざけ郷里の家庭的環境の中に連れ戻しいま郷里で発展のきざしのある疏菜園芸や畜牛の手伝をさせ生業を習得させるため私は今までの出稼ぎをやめることとしております。したがつて、少年院送致の決定は少年を保護する適切な方法でないと思いますのでこの申立を致します。

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